たっすいがはいかん!、は高知県に旅行にいくと居酒屋さんなどで目にするポスターや看板などの文字です。ビール会社のキリンビールのキャッチコピーで、それもキリンラガービールにまつわるセールスコピーのようです。黄色のベタ塗りの背景に、キリンラガービールの瓶の画像とセットで、たっすいがはいかん!という強く太字のゴシック体の文字が合わさったのが一つの定型です。
はじめて旅行にいって目にする意味不明でありながら、目を引くあのキーワード、(ちなみにライバル会社のアサヒビールはこじゃんとうまいというキーワードで、これまた黄色の背景にアサヒスーパードライの瓶で、まるでデザインを申し合わせたかのようで、バチバチのライバル関係を醸しだしており面白いです。)
気になったので調べてみました。
たっすいがはいかんの意味
土佐弁(方言)
たっすいがはいかんは、土佐弁です。
ちなみに、土佐弁といえば、なめたらいかんぜよ、というように、ぜよとかいうイメージがありましたが、もうこれは死語でごく一部の高齢者さんだけが使う言葉だそうです。
それと同じくして、このたっすいがは、、とかいう言葉もほとんどの人にとって日常的には使われなくなった、かつての言葉のようです。
●たっすい、の意味
薄い、弱い、根性がない、なよなよしている、頼りない、といった意味。
●が、の意味
土佐弁でいう「が」は助詞で、標準語でいうところの、「の」です。
「やるが?」→「やるの?」
●いかん、の意味
だめだ、という否定語。関西弁で「あかん」という否定語がありますが、これと同じです。No, いけない、いかん。
たっすい+いかん で、弱っちぃのはダメだ
つまり直訳すると、
弱っちいのはダメだ、薄いのはだめだ、という意味です。
これは四国をよく旅行する私ですが、高知県独特の表現のようですね。(居酒屋の店主は標準語くらいの域で説明してくれますが)愛媛県、徳島県、香川県では使用しない言葉のようですね。高知県オリジナルで奥が深いです。
高知県のいごっそう文化と深い関係がある
高知県には、男はいごっそう、女ははちきん、という表現があります。いごっそうというのは気概十分な男(漢)、反骨心がありタフな高知県民の気性を表す言葉のようです。幕末の志士 坂本龍馬に代表されるように、日本を変える気骨のある男を誇るような、そんなニュアンスを含む言葉です。 はちきん、は男も震え上がる、、通常は2つの金の玉が8つもあるくらいの根性をもった気丈な女性をさします。高知県は離婚率も高いようですが、とにかく女性もエライので男顔負けの甲斐性があるということでしょう。つまり男も女もタフ、こわい。現地語で、がい(やんちゃ)な性格、というようです。
パンチのないビールなんて飲めねぇ
こういった気性の荒い土佐っ子だから、お酒の消費量も日本有数だとか。
だからこそ、ビールもパンチの利いた味わいのキリンラガービール、だそうです。キリン一番搾りなんかはスッキリしていますからこれとはまた違うようで、また、一番意識しているのは、やはりライバル会社のアサヒスーパードライ、でしょう。
アサヒスーパードライへの対抗としてのたっすいがはいかん
アサヒスーパードライは辛口、といいながらもそのすっきりさや苦みのなさが売りです。
これとは正反対のビールがラガービールです。このラガービールは伝統的な作り方、なんといっても1888年誕生のビールですから正統派ビールです。逆に言うとクラシックなビールということです。昔のビールは苦みが命で味も濃いのが売りでした。
しかしアサヒスーパードライのクリアな味は日本人の味覚をとらえてどんどん売り上げを伸ばしていきます。
ここでキリンビールはこのトレンドに乗るべく、これまで王道であったラガービールを、アサヒスーパードライのように「生」ビールとしてスッキリした味わいとしてリニューアルをかけます。が、これがどうやら高知県の根強いファンの反感をかうこととなり、、
たっすいラガービールはいかん
元の味にもどせ、ラガービールの味がたっすくなった(薄くて物足らなない)、もとにもどせ。ラガービールのたっすいがはいかん。
いごっそうは飲む酒もガツンとくる味わいがいい、ということだそうです。
ちなみに居酒屋の店主さんに聞いたよもやま話によるとキリンビールはその発祥として高知県に所縁があるそうです。
これは三菱商事の創始者である岩崎弥太郎が高知出身で、坂本龍馬との交友をきっかけに誕生した事業がキリンビールの前身の会社だったそうです。さらに、キリンビールの動物のマークがありますが、あれは麒麟という中国の幻の神聖なる獣で慶事の前に現れるという幸運の象徴だそうですが、よくあのフォルムをみてみると、上半身が龍で、下半身が馬なのです。そう、合わせて龍馬、坂本龍馬。なるほどこれは感慨深いお話です。
かくして、このたっすいがはいかんという言葉はただならぬ様相を醸しています。
実は「たっすいがはいかん」には真の意味があって、元気でやろうよ!が正解
字面通りにみると、たっすいがはいかんは、ビールの嗜好をいうただのメーカーの売り文句にしか聞こえませんが、その真意はちがうところにあるようです。
本当の意味は、元気にやっていこうよ!だそうです。
たっすいがはいかん、(くよくよするなよ)
元気出していこうぜ!
たしかに、たっすいがはいかん、のキャッチコピーの横には、
「高知を元気に」
の言葉が添えられています。
これはつまり、世の中つらいけど前を向いて元気出していこうよ、ビールでも飲んで。
が真意でしょう。
また、土佐の高知の(はりまや橋のぉ♪坊さん、かんざし買うを見た、よさこい、よさこい、ハイっハイっ、※よさこい音頭)気骨のある県民性の心意気を表した、ソウルワードとも言えます。いわば、合言葉でいう、エイエイオー!です。
ちなみに、キリンビールさんはこの手の地域密着活動をあちこちやっていて、その土地の方言を使ったキャッチコピーを展開していた時期があったみたいですが、これだけ当たって県民に浸透している地域はないそうです。
ただ方言を使って消費者に媚びるだけではダメということで、やはりその地域に溶け込んだ、つまりはその住民のアイデンティティを言語化できていないと消費者の心は掴めないということですね。
ま、おいしいお酒が飲めればそれだけでいいのですけどね。
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